最近の研究成果

最近我々はモット絶縁体Ca2RuO4に電流を印可することによって、低温で巨大な反磁性が生じることを明らかにしました。 その起源を明らかにするため、類縁の絶縁体Ca3(Ru1-xTix)2O7に対して、電流印可下での電気的・磁気的特性の変化を研究しました。その結果、この物質でも同様の電流印可反磁性が生じることがわかりました。しかし、先行研究のCa2RuO4との大きく異なり、Ca3(Ru1-xTix)2O7ではRuスピンの反強磁性秩序と電流誘起反磁性が共存すること、また電流のオン・オフによって反磁性もオン・オフできることを示しました。この発見は、電流印可下での新奇物性が生じるメカニズムの解明に向けて重要な知見となると考えています。本成果はPhysical Review Letters誌に掲載されました。

本来等価なはずの方向でクーパー対の結合の強さが異なるという、超伝導ギャップ振幅が回転対称性を破ったネマティック超伝導状態が最近注目を集めています。私は2016年に比熱測定の実験に基づきネマティック超伝導の初めての熱力学的な証拠を報告しましたが、このたびこのネマティック超伝導状態に関するレビュー論文をMDPI Condensed Matter誌に書きました(Condens. Matter vol.4, article number 2, 2019)(Erice Workshop 2018 "Majorana Fermions and Topological Materials Science" のプロシーディングス論文)。下のようなギャップ構造のきれいな図を頑張って(もちろんgnuplotで)作ったので、使ってください。

電子同士のクーロン反発によって伝導電子が動けなくなって絶縁体となっているMott絶縁体に対して、元素置換や圧力印加をすることによって伝導電子が動けるようにしてやると、銅酸化物の高温超伝導のように非常に興味深い現象が引き起こされます。我々は、Mott絶縁体であるCa2RuO4にわずかに直流電流を印加することで、Mott絶縁状態をわずかに壊した状態を実現し、そこで巨大反磁性が表れることを明らかにしました。反磁性とは、物質が磁石のN極にもS極にも反発するような性質です。身の回りでも、プラスチック、銅、カエルなど、反磁性を示す例はたくさんありますが、いずれも非常に弱い効果でした。例外的に強い反磁性を示す物質は熱分解グラファイトやビスマスが知られています。完全反磁性を比較的低磁場で示す超伝導体を除けば、これらが地球上で最強の反磁性体で、これらトップ2は少なくとも50年以上もの間変わっていませんでした。本研究で見つけた電流誘起の反磁性の大きさはこれらの反磁性体のそれをしのぐものであり、何十年かぶりに記録を塗り替えたことになります。また電子間の相互作用が大きい物質では反磁性は生じないのが固体物理の常識であり、Mott絶縁体という相互作用が強い極限のような物質で大きな反磁性が生じたことは非常に驚きです。さらに、電流を用いてMott絶縁体の電気的・磁気的性質をコントロールできることを示したことは、応用的な観点からも価値があると考えています。 本成果は2017年11月24日のScience誌に掲載されました。当研究室のPSのC. Sowさんが中心に実験をした仕事です。

2017年11月のTopics Ca2RuO4の電流誘起巨大反磁性

ABO3の化学式で表されるペロブスカイト酸化物は、2種の金属イオンを持つ酸化物としては最もシンプルな構造を持ち、物質科学・地球科学などにおいて非常に重要な物質です。まさに酸化物の代表選手といっても過言ではありません。実はペロブスカイト酸化物には、イオンの価数の正負を逆転させた「兄弟」であるアンチペロブスカイト酸化物という物質群が存在します。このアンチペロブスカイト酸化物はB金属イオンの価数が負になっているなど、通常の酸化物とは異なった性質を持ち、トポロジカル物質である可能性も指摘されています。我々は、アンチペロブスカイト酸化物Sr3-xSnOを合成し、この物質が約5 K以下で超伝導を示すことを発見しました。これは、アンチペロブスカイト酸化物で見つかった初めての超伝導です。また、理論グループとの共同研究で、この物質がトポロジカル超伝導体である可能性を指摘しました。本成果はNature Communications誌に掲載されました。当研究室のD2のM. Oudah君、M2の池田君、M2(フンボルト大学からの交換留学生)J. N. Hausmann君が中心に実験をした仕事で、理論解析については京大の佐藤教授・名古屋大の小林助教らと共同研究をしました。(下図は当該のNature Communications論文より引用。)

2016年12月のTopics Sr3-xSnOの超伝導

強磁性金属と超伝導のハイブリッド素子は、超伝導の特性を利用したスピントロニクスという観点で興味が持たれています。一般に金属と超伝導を接合すると、超伝導電子対が金属中にしみこむ「近接効果」が起こります。しかし、強磁性金属と超伝導は通常は相性が悪く、強磁性体の中に通常のスピン一重項超伝導対をしみこませようとしても数ナノメートル程度しかしみこまないことが知られています。最近、強磁性体と超伝導体の間に別の磁性層を挿入することで、スピンの自由度を持つスピン三重項超伝導対を一重項対から変換生成し、強磁性体内に超伝導を非常に長い距離しみこませることができることが報告されていますが、この第3の磁性層の制御が難しいことや、この層がスピンの情報を乱してしまうなどの問題点がありました。我々は、スピン三重項超伝導体から強磁性体内に、別の磁性層無しに直接超伝導電子対をしみこませることに、初めて成功しました。具体的には、Au/SrRuO3/Sr2RuO4からなるデバイスの伝導特性を測定し、超伝導対がしみこむ際におこる「アンドレーエフ反射」を観測しました。本成果はNature Communications誌に掲載されました。当研究室のPDのAnwarさんが中心となって行った仕事です。(下図は当該のNature Communications論文より引用。)

2016年10月のTopics Au/SrRuO3/Sr2RuO4デバイスとその測定結果の図

相転移に伴う自発的な対称性の破れは、物理学において極めて重要な概念です。申請者らは、トポロジカル絶縁体Bi2Se3にCuをドープした超伝導体CuxBi2Se3単結晶の磁場方向制御下での比熱測定を詳細に行い、結晶の持つ回転対称性が超伝導ギャップ振幅において自発的に破れている「ネマティック超伝導」状態が実現していることを発見しました。これまでに超伝導の位相において回転対称性の破れた超伝導は見つかっていますが、CuxBi2Se3のように超伝導のギャップ振幅の回転対称性が破れた例は知られていませんでした。このような状態の実現が確かめられたのは超伝導研究の100年超の歴史において初めてであり、超伝導の基礎・応用両面で非常に重要な一歩だと考えられます。また、2016年のノーベル物理学賞は物質におけるトポロジーの重要性を開拓した業績について授与されますが、この物質におけるネマティック超伝導はトポロジーの観点でも特異な性質を持つ超伝導であるため、我々の成果は本年のノーベル物理学賞とも深く関連しています。本成果はNature Physics誌のオンライン版に平成28年10月11日(日本時間)に掲載されました。また、注目論文を紹介するNews and Viewsで紹介していただきました。

本成果について、京大HPにプレスリリースを掲載していただきました。また、京都新聞日刊工業新聞マイナビニュース日経テクノロジーオンラインOptronics Online理学研究科HPで紹介していただきました。

2016年10月のTopics CuxBi2Se3におけるネマティック超伝導の図

非常にシンプルな電子構造をもつパラジウム-コバルト酸化物PdCoO2における、非常に大きい磁気抵抗効果を発見しました。磁場による電気抵抗の変化率は、最大で350倍にも及びました。コンピューターシミュレーションにより、この現象のメカニズムの解明にも成功し、どのような物質中でも起こりうる「ありふれた」力であるローレンツ力が巨大な磁気抵抗効果の起源であることが分かりました。この発見は、基礎物理の面でも非常に興味深いですが、磁気センサー等の磁気デバイスを作る上で新しい指針になるとも期待されます。本成果は、首都大の高津君(元博士学生)、東大の石川君(元学部学生)、大阪市立大の吉野さん・村田さん、広島大の獅子堂さん、大阪大の小口さんとの共同研究による成果です。この発見はPhysical Review Lettersに掲載され、Editors' Suggestionに選ばれました。また、アメリカ物理学会の注目論文を紹介するPhysics誌にもSynopsisとして解説記事"The 35000% Solution "が載りました。また、この成果について朝日新聞(8月1日夕刊; 関西のみ)、京都新聞(8月1日朝刊)、日刊工業新聞(8月1日朝刊)、日経産業新聞(8月1日朝刊)、京大ホームページマイナビニュースSJNニュースWEBジャーナルOPTICSでも紹介していただきました。

2013年8月のTopics PdCoO2の磁気抵抗効果の図

私は、修士課程学生の梶川君、研究室の前野教授とともに、ルテニウム酸化物Sr2RuO4の超伝導状態が磁場によって壊されて通常金属状態に変わる際の相転移を研究し、この相転移が、水が氷になる場合と同じような一次相転移になっていることを初めて明らかにしました。つまり、通常の超伝導体の場合とは全く様相が異なった、急激な超伝導の壊れ方をしていることが判明しました。この発見は、これまで見落とされていた未知の相互作用が磁場と超伝導の間に働いているということを強く示唆しています。この成果は、今後の超伝導の基礎研究において重要な意味を持っているだけでなく、超伝導の導電線などへの応用に関しても有用な指針を与えると考えられます。本研究成果は、Physical Review Lettersに掲載されました。また、本成果について日刊工業新聞京大ホームページで紹介されています。

2013年2月のTopics 磁気熱量効果の図

擬一次元超伝導体(TMTSF)2ClO4の単結晶の磁場方向分解熱容量測定から、この物質の超伝導ノード構造を明らかにするとともに、超伝導相の熱力学的な相図を明らかにしました。この結果は、発見から30年以上の間研究されてきたにもかかわらず未だに謎の多いTMTSF系の超伝導の研究の進展に大きく寄与すると考えられます。この結果はPhysical Review B誌のRapid Communicationに掲載されました⇒もっと読む

2012年4月のTopicsの図1

以前の成果の解説はこちら: