擬一次元有機超伝導体(TMTSF)2ClO4のc*軸方向電気抵抗を、当研究室のベクトルマグネットシステムを用いて磁場方向を精密に制御して測定しました。この物質の磁気抵抗は、5Tまでの低磁場でも大きな異方性を持ち、特に磁場をb'軸方向にかけたときにはc*軸方向電気抵抗の温度依存性が非金属的になることが知られています。我々はこの物質の磁気抵抗を磁場方向を細かく変えて測定し、磁場のb'軸方向の成分がc*軸方向電気抵抗の温度依存性を非金属的にすることがわかりました。また量子力学に基づく計算もおこない、磁場のb'軸成分が約1テスラ以上では伝導電子のグリーン関数が実空間でab'面内に局在化を始めることがわかりました。この計算結果と実験結果は非常によく一致します。
このようにこの物質では磁場をb'軸方向にかけたときは、電子状態が2次元的になることを実験・計算の両面から示すことができました。擬一次元有機超伝導体(TMTSF)2X系では磁場がb'軸に平行なときの上部臨界磁場が異常な振る舞いを示すことが報告されていますが、その解釈には今回示された次元性の変化を考慮する必要があると考えられます。
この結果はThe European Physical Journal B [vol.52, 337-343 (2006)]に掲載されました。この研究はLaboratoire de Physique des Solides, Université Paris-Sud(フランス)、Faculté des Sciences de Tunis, Campus Universitaire(チュニジア)などとの共同研究です。