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阪大理学研究科附属先端強磁場科学研究センター開所式に出席(掛谷)

5月20 日、大阪大学豊中キャンパスで行われた、大阪大学理学研究科附属先端強磁場科学研究センター開所式に出席しました。

予定としては、除幕式・内覧会に引き続き、記念式典・記念講演会が執り行われました。

記念講演会は
伊達宗行 大阪大学名誉教授 「磁石の歴史」
大貫惇睦 大阪大学名誉教授 「強磁場を使った重い電子系の物理」
金道浩一 東京大学物性研究所教授 「強磁場コラボラトリー計画について」
という豪華ラインナップ。非常にレアな講演が聴けると期待しておりました。

私は3限の講義が終わった後、急いで豊中に向かったのですが、記念講演会は、大貫先生の講演に入っており、伊達先生の講演は残念ながら拝聴できませんでした。

伊達先生の後に講座を担当された大貫先生は、f電子系化合物を舞台とした重い電子系の物性研究にどのように強磁場が貢献してきたか、を中心に講演されました。私が学生の時に拝見したスライドから、ごく最近の町田洋氏(私の筑波大時代の学生)の結果まで言及されており、衰えない好奇心を感じました。

そして、トリは私の学生時代のボス、金道先生です。
伊達研が牽引した強磁場研究の黎明期から、2000年前後に日本の強磁場研究が置かれた情勢、そこから現在日本の強磁場研究が目指している姿について講演されました。
特に、伊達先生阪大退職から金道先生教授昇任までの窮状については、その時期の一部を過ごした私にとって強い感慨を持ちました。

なお、すべての講演は後日、大阪大学オープンコースウェアにアップされるそうです。

さて、その後祝賀会が開かれました。
そこでは、非常に懐かしい方々にお会いすることができました。
8年ぶりにお会いする伊達先生は、ほとんど変わられていないのに、驚きました。
博士論文で主査を務めて頂いた都福仁先生は、つくばにいらしたときとき以来で、これも8年ぶりにお会いすることができました。
また、修士論文の時に共同研究させて頂いていた掛下知行先生は工学研究科長になられており、相変わらずのエネルギッシュな感じでした。
そのほか、各所でお世話になった先生方、先輩方にお会いすることができたほか、物理学科で教授になっている元同級生のT君と何十年か振りでゆっくり話をすることができました。どこもいろいろ大変みたいですね。

祝賀会の後は、石橋の居酒屋で伊達研の同窓会が執り行われました。卒業生として出席させて頂き、多くの人と話して、楽しい時間を過ごすことができました。

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阪大豊中キャンパスの「大学会館」入口。我々の在学時には「イ号館」として知られていました。

 

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大学会館の講堂内部。線形代数の講義を受けたり、学祭で人間ポンプの大道芸を見たことを思い出しました。

 

 

平成26年度科研費採択

日本学術振興会科学研究費助成事業の平成26年度採択課題が発表され、本研究室関係では、2件の提案が採択されました。

研究代表者:掛谷一弘(准教授)
題目:「高温超伝導テラヘルツ光源の時間領域コヒーレンス測定と元素置換による高強度化
種目:基盤(B)研究

研究代表者:辻本学(日本学術振興会特別研究員SPD)
題目:「超伝導コヒーレントテラヘルツ光源の高出力化と応用
種目:若手(B)研究

貴重な国費からの研究支援ですので、着実な成果を挙げて、社会還元に努めていきます。

辻本氏が平成25年度船井研究奨励賞を受賞

辻本学博士研究員が平成25年度船井研究奨励賞を受賞しました。この賞は、国内の大学または公的研究機関に所属する博士号取得後3年以内の研究者のうち、情報技術、情報科学に関する研究について顕著な功績のあった者を褒賞するものです。 辻本氏は現在ドイツ滞在中のため、楯と賞状の写真を掲載します。

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【参考】
船井情報科学振興財団 ホームページ

(文責 辻本)

日本経済新聞(3月22日付)に記事掲載 「ヘリウム危機 超えゆく技術」

国内のヘリウム需給ひっ迫状況について本研究室が取材を受けた特集記事が日本経済新聞に掲載されました。記事の見出しは、「ヘリウム危機 超えゆく技術 」

第二種超伝導の特徴であるピン止め効果により、高温超伝導体YBCOの焼結体がネオジム磁石によって吊り下げている様子が写真でご覧いただけます。

【参考リンク】
「ヘリウム危機 超えゆく技術 」(日本経済新聞コラム記事)

ヘリウムは極低温や強磁場環境に関係しない研究・産業分野であっても、誰もが必ずどこかでお世話になっている資源です。例えば、病院で体の断層写真を撮影をするMRI(磁気共鳴画像)検査では液体ヘリウムを使用します。他にもインターネットやIP電話などの高速通信技術に不可欠な光ファイバーの製造にヘリウムガスが使用されています。

最近注目されている原子番号の大きい希土類元素(レア・アース)と異なり、原子番号の小さいヘリウムは代替物質がほとんど存在しません。このことがヘリウムが貴重な資源である理由の一つであると考えられます。しかしながら、全世界で見ると貴重な資源であるという認識があまりなされていないという現状もあるようです。

日経新聞の記事で紹介させていただいた超流動現象および蛍光の写真は、それぞれ京都大学低温物質科学研究センターの佐々木豊教授と大塚晃弘准教授の研究室にて撮影されました。特に注目していただきたいのが、超流動ヘリウムが壁を這い上がって落ちる様子(フィルムフロー)の静止画です。屈折率が空気とほぼ等しい超流動ヘリウムは目視でも確認することが困難であるため、今回掲載された写真は非常に貴重な一枚といえます。

集積機能工学セミナー(浅井栄大氏)

浅井栄大博士(産総研)をお招きして集積機能工学セミナーを開催しました。

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超伝導量子メタマテリアルの電磁場応答理論

浅井 栄大

産業技術総合研究所 電子光技術研究部門

近年、新たな電磁波制御技術としてメタマテリアル[1]に大きな注目が集められている。メタマテリアルは、対象とする電磁波の波長に比べて十分小さな「人工原子」と呼ばれる微小構造体から構成される人工物質で、人工原子の形状や配置によって誘電率や透磁率を自在に制御する事ができる。しかし、従来のメタマテリアルは古典電磁気学の限界を超えた電磁波制御を行う事が出来ない。それに対し、近年人工量子二準位系(量子ビット)を人工原子とする量子メタマテリアル(QMM:Quantum MetaMaterial)が大きな注目を集めている[2,3]。QMM においては、量子状態の重ね合わせ状態や量子もつれ状態を利用する事で、古典メタマテリアルでは達成できない新奇な電磁場制御の発現が期待できる。また、最近になってドイツのグループが超伝導回路QEDを用いた量子メタマテリアルの実現に成功した[4]。

本セミナーにおいては、超伝導量子ビットから構成されるQMMの電磁波応答に関する我々の研究について紹介を行う。数値シミュレーションの結果、QMMは量子ビットの状態に依存して極めて多彩な電磁場応答を示すことが明らかになった。講演では、レーザー発振、磁場下で生じる量子渦状態及び「人工超伝導体」の発現について紹介する[5]。

[1] 北野正雄, 応用物理 78, 503 (2009)

[2] A. Rakhmanov et al., Phys. Rev. B 79, 184504 (2009)

[3] A. Shvetsov et al., Phys. Rev. B 87, 235410 (2013)

[4] P. Macha et al., arXiv:1309.5268

[5] H. Asai, S. Kawabata, S. Savel’ev, and A. Zagoskin, in preparation.

(文責 辻本)

高野義彦氏による講演会

物質材料研究機構 高野義彦氏による講演会を行いました

 

鉄系超伝導体FeSe系の電子状態

 

~シュブニコフ-ド・ハース振動から見積もったフェルミ面と過剰鉄の相関からみた超伝導の起源~

 

物質材料研究機構 高野義彦

 

鉄系超伝導体の中でも最も結晶構造がシンプルなFeSe系は、鉄系超伝導の発現メカニズムを解明する上で最適な試料と考えられている。この系は母相としてFeSeとFeTeが挙げられるが、FeSeはそのまま約10Kの超伝導体であるのに対して、FeTeは反強磁性体で超伝導を示さない。両者はほぼ同様の結晶構造を取るにもかかわらず、一方は超伝導であり、また片方は超伝導でないのは、なぜであろうか? この疑問を解明するために、Fe(Te,Se)単結晶試料を作製し、スコッチテープ法で超薄膜微結晶を作製した。そこへ、電子線リソグラフィーを用いて電極を取り付け、電気抵抗率を評価したところ、同一の単結晶から作製したにもかかわらず、超伝導を示す試料片と、示さない試料片が得られた。それぞれ強磁場下で電気抵抗を測定しSdH振動を観測してみると、フェルミ面形状が大きく異なることが分かった。本講演では、このフェルミ面の違いと過剰鉄の関係を議論し、超伝導発現の起源に迫りたい。

鳴海康雄氏による講演会

東北大学金属材料研究所准教授鳴海康雄氏による講演会を実施しました。

旅するパルス超強磁場

-放射光軟X線分光との融合による元素・価数・軌道選択強磁場磁化測定法 とその応用-
Traveling Pulsed High Magnetic Field
-Element, Valence and Orbital Specific High-Magnetic-Field Magnetometry
and its Applications in Collaboration with Synchrotron Soft X-ray
Spectroscopy-

軟X線吸収分光におけるX線磁気円二色性(XMCD)は、左右異なる円偏光X線が物質に吸収される際の差として定義され、その大きさが物質の持つ磁気偏極の大きさに比例することから、分光学的磁化測定法として利用されている。XMCDは元素固有の共鳴吸収条件においてのみ観測されるため、その磁気情報は元素選択性を有する。そのため、強磁性材料研究において、XMCD測定は非常に強力なツールとして発展し、利用されてきた。例えば、強磁性材料として有名なネオジム磁石は、主組成であるNdやFe以外にDyなど複数の元素を含んで最高の性能を発揮する。その時、個々の元素がどのような役割を担っているかを知ることは、磁気特性の向上において非常に重要な課題である。一方で、磁性を利用した制御に目を向けると、メタ磁性転移と構造相転移を伴う磁気形状記憶合金や、磁場の印加で電気分極が発生するマルチフェロイック物質など、反強磁性的な相互作用が重要な役割に担う、興味深い物質が数多く見いだされている。よく知られていることではあるが、多くの磁石材料は反強磁性相互作用を内包するフェリ磁性体である。このような背景のもとに、我々は2008年に、新しいツールとしてのXMCDを、基礎・応用に限らず広く物質に適応していくため、反強磁性相互作用に打ち勝つ強力な磁場を備えたXMCD測定装置の開発に着手した。XMCD測定には、エネルギー可変な高輝度円偏光軟X線を生み出す放射光の利用が必須である。そこで我々は、軟X線分光実験が可能な超高真空対応のパルスマグネットと、放射光施設に持込可能な可搬で小型の強磁場用電源を開発し、40Tの強磁場中で軟X線分光が可能な装置の開発に世界で初めて成功した[1,2]。このセミナーでは、磁性薄膜[3]や、磁場誘起価数転移物質[4]、マルチフェロイック物質への応用例を交えながら、パルス強磁場軟X線分光装置の詳細とその可能性について紹介する。

[1] T. Nakamura et al, Appl. Phys. Exp. 4, 066602 (2011).

[2] Y. Narumi et al., Synch. Rad. News, 25, 12 (2012).

[3] Y. Shiratsuchi et al., App. Phys. Lett. 100, 262413 (2012).

[4] T. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn.,  81, 103705 (2012).

スピン角運動量

スピン角運動量という自由度は、軌道角運動量とは異なり、古典力学では説明できない概念である。
 
「スピン」といっても球のような電子が自転しているわけではないことに注意して欲しい。
 
スピンが見出されたのは、1896年に発見された磁場中でナトリウムの発光スペクトルが分離する現象(ゼーマン効果)が直接の要因である。
他にも、軌道角運動量の自由度だけでは説明できない現象が次々と見つかり、アインシュタインやボーアなど当時の大物理学者たちを悩ませていた。
 
はじめに、スピンの概念を思いついたのは、クラマース・クローニッヒ変換のラルフ・クローニッヒだったそうである。彼は1925年の初頭にスピンのアイディアを思いつき、綿密な計算をしてウォルフガング・パウリに打ち明けたところ、相手にもされず、そのアイディアを引っ込めた。
 
スピンの発見者として名を残しているのは、オランダのウーレンベックとハウストミットである。
彼らは、エーレンフェストのポスドクであり、二人で切磋琢磨して研究を行っていた。
彼らはスピンの着想をクローニッヒとは独立に得て、計算を進めて論文を仕上げた。
 

 

エーレンフェストはスピンと言うアイディアについて、確信が得られなかったので、すでに引退していたが、ご意見番として健在だったローレンツに伺いを立ててみた。
ローレンツは当初否定的な意見は述べず、興味深いアイディアなので、検討してみると引き取った。
 
やがて、ローレンツの最終的な意見がもたらされたが、それは否定的なものであった。このアイディアで行くと、電子の表面は高速を超える速さで自転をしていなければならず、相対性理論と矛盾すると言うことである。
それを聞いたウーレンベックとハウストミット真っ青になっただろう。
すぐにエーレンフェストのところに行って論文を投稿しないように頼んだそうである。
しかし、エーレンフェストはすでに論文を投稿していた。
 
そのとき、エーレンフェストが彼らに放った言葉がすばらしい
「君たちは十分若いんだから、馬鹿なことをやっても大丈夫だ」
 
つまり、なんかあったら俺が責任取る、ってことを言ったわけだね。
 

Silver pastes

Dupont 4922 (or 4929)

  • もっとも汎用性の高い銀ペースト。室温で硬化し、すぐに導通が確認できる。
  • 接着力はほとんど無い
  • 銀の粒径が小さい(1ミクロン程度)
  • データシートによると、溶剤は酢酸ブチルとなっているが、酢酸ブチルセロソルブを併用すると硬化時間が調整できて、作業性が高くなり、小さな場所にも付けられる。
  • 4929の方が若干粘性が高いが、溶剤次第ではある。
  • メーカーデータシート

Dupont 6838

  • 加熱硬化型銀ペースト。
  • バインダ-となっているエポキシを150-300度で加熱重合させ、強い接着力を維持する。
  • 銀の粒径は4922などと同様小さい。
  • 溶剤は酢酸ブチルセロソルブ。室温ではほとんど硬化しないので、小さい場所にも付けられるが、加熱する必要がある。
  • データシートは4922と同一

Epotek H20E

  • 2液型加熱硬化銀ペースト。
  • AB剤を等量混合させ、250度以上で加熱硬化させる。
  • 350度の硬化により酸化物の大気暴露された表面にほぼ確実にコンタクトがとれる。
  • 銀の割合が最も多そうな印象
  • 粒径が粗く、実体顕微鏡でも銀の粒子がよく見える。
  • メーカーデータシート

銀ペーストによる電極付けのコツ

  • まず、午前中に始める
  • 初めの1回目がもっとも精度が高い
  • スライドガラスに取り出し、溶剤を加えて粘度を調整しながら、精神集中
  • 爪楊枝の先に銀ペーストを取り、顕微鏡の視野内におく
  • なるべく細い金線をピンセットでつかみ、顕微鏡の視野内にある銀ペーストを拾う
  • ためらわずに目的の場所におく
  • 動きのぶれを抑えるためには、ピンセットを持っていない方の手の指でピンセットの先を支える
  • さらに精度が必要なときには、目的の場所になるべく近いところにピンセットの先端を立てて、支点とする

Diamagnetizaion

本電気工学・電子工学専攻にはM1で履修する「特別研修」(通称インターン)と呼ばれる異なる研究室に行って研究を体験する科目があります。

時間割上は木曜日と金曜日の3、4コマで、6週間で研究室が代わり、2つの研究室で研究を経験できることになります。

私が担当するインターンでは、ここ数年は以下のメニューでやっています。

  • 前半3週で 超伝導について調査・発表
  • 後半3週で 超伝導体単結晶育成

育成した単結晶は磁化と抵抗を測定して超伝導であることを確認しますが、物性量として評価するためには以下の注意が必要です。

磁化

磁化というのは非常にやっかいな物理量で、単位系を理解するのに一苦労です。

ここで使用するQuantum Design社のMagnetic Property Measurement System (MPMS)は磁化の測定値として”EMU”と言う単位でデータファイルに出力します。我々の装置では,”Long Moment”という行です。

物性量にするためには、単位量当たりにする必要があります。一般には質量当たり(つまり、emu/g)がよく用いられますが、測定対象が超伝導体の場合単位体積当たり(emu/cm3)、磁性体の場合式量当たり(emu/f.u.)で計算すると物性がよくわかります。

超伝導体の場合、完全反磁性では体積磁化率は-1/4π となるべきですので、これとの比較を試みます。

測定値を”EMU”だとすると、試料の体積Vを用いると体積磁化はMv=EMU/V、Vをcm3で計算したとき、単位はgauss/cm3となります。

ここで、「あれ?」と思ったかもしれません。いつの間にかemuと言う単位がgaussに変わっています。これは、磁化の値をemuで示すときはCGS-gaussではgaussの意味である、と言うことになっているからです。

体積磁化率を求めるときはこの値をgauss単位の磁場(正確にはOe単位の外部磁場により真空中に誘起される磁束密度)で割ります。

従ってχv=Mv0H[cm-3]となります。

たとえば、V=1.6mmx1.4mmx30
μ mの薄片状の単結晶の薄片に垂直に磁場を加えてH=1Oeの外部磁場により磁化を測定したとき、超伝導転移を示して磁化の値が低温においてEMU=-8×10-3 emuで飽和したとします。このとき、結晶は完全反磁性になったと考えられるので、体積磁化率を出してみましょう。

χv=EMU/(V μ0 H)=-11.9 [cm-3]

を得ますが、これは1/4πよりはるかに大きな値です。この理由は、測定に問題があり、

  1. 超伝導マグネットを使用しているMPMSの低磁場の制御は再現性が低い(正確に校正する方法はある)
  2. 薄片に垂直に磁場を加えているので、反磁場効果のため磁化の絶対値が大きくなっている
という原因が考えられます。
従って、正確な評価のためには、
  1. 10ガウス以上の磁場で測定する(あるいは低磁場を校正した後測定する)
  2. 反磁場係数を計算できる形状に試料を整形する
と言った結構めんどくさいことが必要になってきます。