電気伝導を説明する古典的なモデルにDrudeモデルというのがある.
これは,電子が(何かに)散乱されることにより運動エネルギーを失い,ジュール熱になる,というモデルである.
このモデルは正しくないとわかっているのだが,電気伝導を初歩的な概念で説明できるため,量子力学を習う前の電気伝導の説明には良く用いられる.
この電子散乱に関して有名な議論がある.私は勝手に「緩和時間2倍問題」と呼んでいる.
電子の緩和時間を\tauで表すと,散乱されずに残っている電子の割合は\exp(-1/\tau)となる. 最後の散乱から\tau時間経過した電子が散乱されない割合はやはり\exp(-1/\tau)である. そうすると,電子の寿命は2\tauになる.
これは詭弁なのだが,何がおかしいか?
問題は重みを無視していることにある.
ちなみに,Shockleyの有名な教科書「半導体物理学」8.5節で言及されているが日本語訳ではわかりにくい表現である.
それにしてもこの本の内容はすばらしい.絶版となっているのが惜しい.
14章冒頭の記述(川村肇訳 吉岡書店刊)
量子力学は直接の物理的意味を持たない抽象的な数学を用いるので,理論物理学の中でも可成りむつかしい分野の一つと思われている. (中略) そのように直接的の意味づけをもたないことは教育的な見地からは明らかに不利である. しかしこのことは理論を適用したときに正しさに欠けるところがあると云うことには決してならない. 経験科学の数学的理論が満足しなければならない至上要請はそれが実験に合わなければならないということである.
いやはや,実学である物理の真髄です.