日本経済新聞(3月22日付)に記事掲載 「ヘリウム危機 超えゆく技術」

国内のヘリウム需給ひっ迫状況について本研究室が取材を受けた特集記事が日本経済新聞に掲載されました。記事の見出しは、「ヘリウム危機 超えゆく技術 」

第二種超伝導の特徴であるピン止め効果により、高温超伝導体YBCOの焼結体がネオジム磁石によって吊り下げている様子が写真でご覧いただけます。

【参考リンク】
「ヘリウム危機 超えゆく技術 」(日本経済新聞コラム記事)

ヘリウムは極低温や強磁場環境に関係しない研究・産業分野であっても、誰もが必ずどこかでお世話になっている資源です。例えば、病院で体の断層写真を撮影をするMRI(磁気共鳴画像)検査では液体ヘリウムを使用します。他にもインターネットやIP電話などの高速通信技術に不可欠な光ファイバーの製造にヘリウムガスが使用されています。

最近注目されている原子番号の大きい希土類元素(レア・アース)と異なり、原子番号の小さいヘリウムは代替物質がほとんど存在しません。このことがヘリウムが貴重な資源である理由の一つであると考えられます。しかしながら、全世界で見ると貴重な資源であるという認識があまりなされていないという現状もあるようです。

日経新聞の記事で紹介させていただいた超流動現象および蛍光の写真は、それぞれ京都大学低温物質科学研究センターの佐々木豊教授と大塚晃弘准教授の研究室にて撮影されました。特に注目していただきたいのが、超流動ヘリウムが壁を這い上がって落ちる様子(フィルムフロー)の静止画です。屈折率が空気とほぼ等しい超流動ヘリウムは目視でも確認することが困難であるため、今回掲載された写真は非常に貴重な一枚といえます。

集積機能工学セミナー(浅井栄大氏)

浅井栄大博士(産総研)をお招きして集積機能工学セミナーを開催しました。

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超伝導量子メタマテリアルの電磁場応答理論

浅井 栄大

産業技術総合研究所 電子光技術研究部門

近年、新たな電磁波制御技術としてメタマテリアル[1]に大きな注目が集められている。メタマテリアルは、対象とする電磁波の波長に比べて十分小さな「人工原子」と呼ばれる微小構造体から構成される人工物質で、人工原子の形状や配置によって誘電率や透磁率を自在に制御する事ができる。しかし、従来のメタマテリアルは古典電磁気学の限界を超えた電磁波制御を行う事が出来ない。それに対し、近年人工量子二準位系(量子ビット)を人工原子とする量子メタマテリアル(QMM:Quantum MetaMaterial)が大きな注目を集めている[2,3]。QMM においては、量子状態の重ね合わせ状態や量子もつれ状態を利用する事で、古典メタマテリアルでは達成できない新奇な電磁場制御の発現が期待できる。また、最近になってドイツのグループが超伝導回路QEDを用いた量子メタマテリアルの実現に成功した[4]。

本セミナーにおいては、超伝導量子ビットから構成されるQMMの電磁波応答に関する我々の研究について紹介を行う。数値シミュレーションの結果、QMMは量子ビットの状態に依存して極めて多彩な電磁場応答を示すことが明らかになった。講演では、レーザー発振、磁場下で生じる量子渦状態及び「人工超伝導体」の発現について紹介する[5]。

[1] 北野正雄, 応用物理 78, 503 (2009)

[2] A. Rakhmanov et al., Phys. Rev. B 79, 184504 (2009)

[3] A. Shvetsov et al., Phys. Rev. B 87, 235410 (2013)

[4] P. Macha et al., arXiv:1309.5268

[5] H. Asai, S. Kawabata, S. Savel’ev, and A. Zagoskin, in preparation.

(文責 辻本)

高野義彦氏による講演会

物質材料研究機構 高野義彦氏による講演会を行いました

 

鉄系超伝導体FeSe系の電子状態

 

~シュブニコフ-ド・ハース振動から見積もったフェルミ面と過剰鉄の相関からみた超伝導の起源~

 

物質材料研究機構 高野義彦

 

鉄系超伝導体の中でも最も結晶構造がシンプルなFeSe系は、鉄系超伝導の発現メカニズムを解明する上で最適な試料と考えられている。この系は母相としてFeSeとFeTeが挙げられるが、FeSeはそのまま約10Kの超伝導体であるのに対して、FeTeは反強磁性体で超伝導を示さない。両者はほぼ同様の結晶構造を取るにもかかわらず、一方は超伝導であり、また片方は超伝導でないのは、なぜであろうか? この疑問を解明するために、Fe(Te,Se)単結晶試料を作製し、スコッチテープ法で超薄膜微結晶を作製した。そこへ、電子線リソグラフィーを用いて電極を取り付け、電気抵抗率を評価したところ、同一の単結晶から作製したにもかかわらず、超伝導を示す試料片と、示さない試料片が得られた。それぞれ強磁場下で電気抵抗を測定しSdH振動を観測してみると、フェルミ面形状が大きく異なることが分かった。本講演では、このフェルミ面の違いと過剰鉄の関係を議論し、超伝導発現の起源に迫りたい。

鳴海康雄氏による講演会

東北大学金属材料研究所准教授鳴海康雄氏による講演会を実施しました。

旅するパルス超強磁場

-放射光軟X線分光との融合による元素・価数・軌道選択強磁場磁化測定法 とその応用-
Traveling Pulsed High Magnetic Field
-Element, Valence and Orbital Specific High-Magnetic-Field Magnetometry
and its Applications in Collaboration with Synchrotron Soft X-ray
Spectroscopy-

軟X線吸収分光におけるX線磁気円二色性(XMCD)は、左右異なる円偏光X線が物質に吸収される際の差として定義され、その大きさが物質の持つ磁気偏極の大きさに比例することから、分光学的磁化測定法として利用されている。XMCDは元素固有の共鳴吸収条件においてのみ観測されるため、その磁気情報は元素選択性を有する。そのため、強磁性材料研究において、XMCD測定は非常に強力なツールとして発展し、利用されてきた。例えば、強磁性材料として有名なネオジム磁石は、主組成であるNdやFe以外にDyなど複数の元素を含んで最高の性能を発揮する。その時、個々の元素がどのような役割を担っているかを知ることは、磁気特性の向上において非常に重要な課題である。一方で、磁性を利用した制御に目を向けると、メタ磁性転移と構造相転移を伴う磁気形状記憶合金や、磁場の印加で電気分極が発生するマルチフェロイック物質など、反強磁性的な相互作用が重要な役割に担う、興味深い物質が数多く見いだされている。よく知られていることではあるが、多くの磁石材料は反強磁性相互作用を内包するフェリ磁性体である。このような背景のもとに、我々は2008年に、新しいツールとしてのXMCDを、基礎・応用に限らず広く物質に適応していくため、反強磁性相互作用に打ち勝つ強力な磁場を備えたXMCD測定装置の開発に着手した。XMCD測定には、エネルギー可変な高輝度円偏光軟X線を生み出す放射光の利用が必須である。そこで我々は、軟X線分光実験が可能な超高真空対応のパルスマグネットと、放射光施設に持込可能な可搬で小型の強磁場用電源を開発し、40Tの強磁場中で軟X線分光が可能な装置の開発に世界で初めて成功した[1,2]。このセミナーでは、磁性薄膜[3]や、磁場誘起価数転移物質[4]、マルチフェロイック物質への応用例を交えながら、パルス強磁場軟X線分光装置の詳細とその可能性について紹介する。

[1] T. Nakamura et al, Appl. Phys. Exp. 4, 066602 (2011).

[2] Y. Narumi et al., Synch. Rad. News, 25, 12 (2012).

[3] Y. Shiratsuchi et al., App. Phys. Lett. 100, 262413 (2012).

[4] T. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn.,  81, 103705 (2012).