THz-plasma2014報告(正式版)

第9回高温超伝導体における固有ジョセフソン効果とテラヘルツ発振に関する国際会議(略称: THz-plasma 2014)」は2014年11月30日(日)から12月3日(水)の4日間にわたり、京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールなどで開催されました。

オープニングトーク
掛谷によるオープニングトーク

参加登録者数は、110名、そのうち、海外からの参加者数は33名で、所属機関の所在国は多い順にドイツ、ロシア、トルコ、米国、台湾、中華人民共和国、スウェーデン、英国、韓国、イタリア、スイス、フランス、イランの13カ国でした。発表数は、招待講演34件(各25分)、一般口頭講演20件(各15分)、ポスター発表35件(2時間)の計89件となり、予想を上回る数の申込があり、口頭講演を希望したにも関わらず、ポスターセッションに廻った発表が数多くありました。参加者数、発表数に関しては、第9回となる一連の会議の中で最多でした。

1番目の講演者、チュービンゲン大学Kleiner教授
1番目の講演者、チュービンゲン大学Kleiner教授

3日間にわたる講演プログラムは、超伝導体におけるテラヘルツ発振・応答に関する4つのセッション、高温超伝導体の固有ジョセフソン特性に関する2つのセッション、超伝導微細構造におけるジョセフソン特性または検出器に関する3つのセッション、トポロジカル物質および界面に関する1つのセッション、超伝導メタマテリアルに関する1つのセッションから構成されました。いずれのセッションでも活発な議論が繰り広げられ、常に休憩時間を短縮する旨のアナウンスを毎回の休憩前に行うことに、筆者は嬉しい悲鳴をあげていました。また、休憩時間でも議論に花が咲き、しばしばベルを鳴らしながら着席を促しました。また、ポスターセッションは、関連する発表ごとにソートしつつも、異なる分野の研究者が交流しやすいようにボードの配置を配慮した結果、エクスカーションのあとで一日の終わりのプログラムだったにも関わらず、終了時間近くまで多くの参加者が議論していました。なお、ポスター賞として、5件の発表を選出しました。

休憩時間
休憩時間も白熱した議論が続く

以下で、個別のトピックについて、成果を挙げます。

まず、会議の中心議題である高温超伝導体テラヘルツ光源の進展について言及します。素子温度が液体窒素温度(77 K)以上でテラヘルツ発振が検出され、さらには最大の発振強度が77 K近傍にあるという報告が数件あったことは、実用上の大きな進展となります。これは、液体ヘリウム不要の小型冷凍機で容易に実現できる温度で、ポータブルコヒーレントテラヘルツ光源の実現に近づいたと言えます。また、1 THzを超える発振について複数の報告があったことも、特筆すべき事だと考えられます。発振機構に関しては熱伝導方程式や温度分布の観測から発振の強度および電流電圧特性を計算し、実験結果と定量的に比較するというところまで進みました。理論のグループからは、3次元数値計算により素子の積層数から発振条件、放射強度を予測できるという報告がありました。さらには、超伝導体の物性パラメータおよびデバイスパラメータを様々に変えた場合の実験も多く報告されて、発振現象が系統的に理解できるようになったと言えます。

 

PD辻本の招待講演。研究室からは3件の口頭発表、8件のポスター発表を行いました。
PD辻本の招待講演。研究室からは3件の口頭発表、8件のポスター発表を行いました。

固有ジョセフソン接合の物理に関しても、注目すべき報告がなされました。今回の会議で鉄系超伝導体など4つの新しい固有ジョセフソン特性を示す物質が報告されました。また、量子ビットや磁束メモリなどに応用可能な固有ジョセフソン接合特有の現象について系統的な研究や、テラヘルツパルスレーザーを用いた時間分解測定が発表され、固有ジョセフソン特性の研究が再加速されていく兆しが見えてきました。

チェアマン門脇筑波大教授のサマリートーク
共同主催者筑波大門脇教授のサマリートーク

過去の会議でも中心の議題だった以上のトピックに加え今回は、ふたつの新機軸を打ち出しました。ひとつは超伝導位相デバイス、もう一つはトポロジカル系であり、それぞれ固有ジョセフソン接合研究の波及効果と新たな研究の種を意識してのプログラムを組みました。超伝導体における巨視的波動関数の位相に敏感な現象を用いた光子または中性子検出器、メモリの開発や提案に関する研究発表がなされました。また、超伝導メタマテリアルも位相デバイスのひとつとして、セッションを設定しました。一方、トポロジカル系としては、トポロジカル物質の研究だけでなく、超伝導・強磁性界面における物性についても活発な議論が行われました。これらの新機軸セッションの発表者の多くは一連の会議に初参加でしたが、他のセッションや社交イベントも楽しんでいただいた事は、本会議の大きな成果です。また、従来からの常連参加者からも、この新機軸について高い評価を頂きました。

東福寺通天橋
東福寺通天橋

このように、講演プログラムにおいて初めから終わりまで熱い議論が繰り広げられたのは、主にすばらしい発表によるものですが、報告書としては、社交イベントおよびインターセッションの充実も挙げたいと思います。初日の歓迎レセプションでまず再会を楽しみ、旧交を温めました。これが助走となり、翌日朝からの活発な議論が実現しました。3日目(講演2日目)午後のエクスカーションでは、東福寺で紅葉を鑑賞した後、伏見稲荷を訪れました。普通は、千本鳥居までで引き返すところですが、2時間かけて稲荷山のほぼ山頂まで登り、帰ってきました。日が暮れて寒かったのですが、欧米系の参加者には概ね好評だったようです。一緒に登山したシニアな研究者たちがポスターセッションでも最後まで活発に議論していたことに、学生たちは驚いていたようです。

夕暮れの伏見稲荷
夕暮れの伏見稲荷

最終日の懇親会では、一連の会議を創始した東北大学名誉教授山下努先生、立木昌先生を顕彰し、ポスター賞の表彰を行い、京都大学交響楽団からのスピンアウト団体の弦楽四重奏で幕を閉じました。また、昼食や茶菓など、インターセッションでの提供物も参加者間の話題になるよう、工夫をしました。このような会議を開催する上で社交イベントやインターセッションで提供するサービスの手配は主催者の頭を悩ませるものですが、各方面からご支援頂いたおかげで、目的に応じた運用のもと、制約なく検討したものを提供できた事を特記します。余談ですが、複数の招待講演者から「美味しいものがあるから良い議論ができる」という旨のお褒めの言葉を頂きました。

鏡割り
鏡割りの準備。盛り上がりました。
懇親会の表彰式
懇親会の表彰式
アンサンブルカンフリエの演奏
アンサンブルカンフリエの演奏

次回、第10回の会議は、中華人民共和国の南京大学で2016年秋に開催されることとなりました。今回の会議で広がったコミュニティがさらに広がることと同時に、発表や運営の経験を積んだ学生を含む若手研究者たちを中心にさらに進んだ成果を発表し、また別の国際舞台でも活躍してくれることを期待しています。

次回のホストHuabing Wang博士
次回のホストHuabing Wang博士

最後になりましたが、参加者の皆様、ご支援いただいた各個人および団体に重ねて感謝申し上げます。

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