本電気工学・電子工学専攻にはM1で履修する「特別研修」(通称インターン)と呼ばれる異なる研究室に行って研究を体験する科目があります。
時間割上は木曜日と金曜日の3、4コマで、6週間で研究室が代わり、2つの研究室で研究を経験できることになります。
私が担当するインターンでは、ここ数年は以下のメニューでやっています。
- 前半3週で 超伝導について調査・発表
- 後半3週で 超伝導体単結晶育成
育成した単結晶は磁化と抵抗を測定して超伝導であることを確認しますが、物性量として評価するためには以下の注意が必要です。
磁化
磁化というのは非常にやっかいな物理量で、単位系を理解するのに一苦労です。
ここで使用するQuantum Design社のMagnetic Property Measurement System (MPMS)は磁化の測定値として”EMU”と言う単位でデータファイルに出力します。我々の装置では,”Long Moment”という行です。
物性量にするためには、単位量当たりにする必要があります。一般には質量当たり(つまり、emu/g)がよく用いられますが、測定対象が超伝導体の場合単位体積当たり(emu/cm3)、磁性体の場合式量当たり(emu/f.u.)で計算すると物性がよくわかります。
超伝導体の場合、完全反磁性では体積磁化率は-1/4π となるべきですので、これとの比較を試みます。
測定値を”EMU”だとすると、試料の体積Vを用いると体積磁化はMv=EMU/V、Vをcm3で計算したとき、単位はgauss/cm3となります。
ここで、「あれ?」と思ったかもしれません。いつの間にかemuと言う単位がgaussに変わっています。これは、磁化の値をemuで示すときはCGS-gaussではgaussの意味である、と言うことになっているからです。
体積磁化率を求めるときはこの値をgauss単位の磁場(正確にはOe単位の外部磁場により真空中に誘起される磁束密度)で割ります。
従ってχv=Mv/μ0H[cm-3]となります。
たとえば、V=1.6mmx1.4mmx30
μ mの薄片状の単結晶の薄片に垂直に磁場を加えてH=1Oeの外部磁場により磁化を測定したとき、超伝導転移を示して磁化の値が低温においてEMU=-8×10-3 emuで飽和したとします。このとき、結晶は完全反磁性になったと考えられるので、体積磁化率を出してみましょう。
χv=EMU/(V μ0 H)=-11.9 [cm-3]
を得ますが、これは1/4πよりはるかに大きな値です。この理由は、測定に問題があり、
- 超伝導マグネットを使用しているMPMSの低磁場の制御は再現性が低い(正確に校正する方法はある)
- 薄片に垂直に磁場を加えているので、反磁場効果のため磁化の絶対値が大きくなっている
- 10ガウス以上の磁場で測定する(あるいは低磁場を校正した後測定する)
- 反磁場係数を計算できる形状に試料を整形する