「超伝導現象の理解と物質科学」–電気伝導第6,7講

前回の復習

産業革命によって興った近代工業を効率化させる過程で、固体を構成する原子の成り立ちを解明しようとする動きが19世紀中ごろからなされていた。その結果、発見された電子と、電子が離れたイオンの基底状態について調べるために、絶対零度になるべく近づいて、物質の性質を測定することが必要になった。カマリンオンネスは、ヘリウムの液化に成功し、低温における金属の性質を明らかにしていく過程で、電気抵抗が急激に消失する現象を発見し、「超伝導」という新しい相であることを指摘した。

マイスナーオクセンフェルド効果

超伝導体が金属と本質的に異なることを示す現象は、マイスナーとオクセンフェルドが1932年に実証した完全反磁性である。現在では、超伝導である実験的な証拠としてはゼロ抵抗のほかに、完全反磁性の検出が不可欠である。

ロンドン理論

マイスナー効果は、マクスウェル方程式に従う古典電磁気学では、説明できない。これを説明するために、ロンドン兄弟は、超伝導電流がベクトルポテンシャルに比例するという式を作って、超伝導体中では一様な静磁場は存在せず、超伝導電子の有効質量と密度で決まる特徴的な長さ(ロンドンの侵入長)で減衰することを示した。このロンドン方程式は、超伝導電流ではベクトルポテンシャルが顕わになるという点で、その後発見されたジョセフソン効果と強く関係している。また、ロンドンは、超伝導電子密度が大きく変化しない距離として、コヒーレンス長を導入した。これはのちに、BCS理論におけるクーパー対を作る電子間の平均距離と考えられている。

ギンツブルグ・ランダウ理論

旧ソ連では、超伝導研究が盛んになされ、冷戦中は西側世界の情報からは距離を置いた独特の研究がなされていた。その中で、ランダウは一般の相転移論に関して、秩序パラメータという概念を導入した。例えば、物質が液体から固体になるときに物質の密度が大きく変化する。これを波動関数のように複素数の形式を持つ秩序パラメータとする考えである。この枠組みを超伝導の相転移に導入したのが、1950年に発表された、ギンツブルグ・ランダウ(GL)理論である。GL理論では、超伝導体の自由エネルギーが、有限の秩序パラメータで極小になるために、超伝導状態が基底状態になると指摘し、自由エネルギーの極小値を与える変分方程式から、超伝導体の電磁応答現象の多くを説明した。GL理論は、超伝導体だけでなく、素粒子論にも適用された。

バーディーン・クーパー・シュリーファー(BCS)理論

1950年代になって、超伝導に関する巨視的な発見が出そろった頃、量子論を構築する動きが盛んになってきた。トランジスタの発見で、のちにノーベル賞を受賞することになるバーディーンは、ベル研究所からイリノイ大学に移り、超伝導の量子論に取り組んでいた。1950年代の前半、超伝導体の電磁波の応答や同位体効果など、微視的機構に関する実験結果とそれを説明しようとする理論が多く提唱された。バーディーンは、若い物理学者であるクーパーをプリンストン大学から招聘し、大学院生のシュリーファーを合わせた3人のチームで超伝導の量子論を完成させ、1957年に発表した。フェルミ粒子である電子は、フォノンを介した電子間引力によりクーパー対を形成してボース粒子になり、ボースアインシュタイン凝縮して基底状態に落ち込んだマクロな数の超伝導電子が超伝導電流を担う、という描像である。このBCS理論は、絶対零度でフェルミ面にはクーパー対だけが存在し、電子(準粒子)が存在しないことを示しており、超伝導状態の電子比熱、準粒子トンネル現象がそれを裏付けた。また、電子格子相互作用の大きさとデバイ振動数が超伝導転移温度を与えることもBCS理論から予言された。

第2種超伝導体

超伝導体の特徴として完全反磁性を挙げたが、その理由により磁場中で超伝導を維持するためには超伝導状態の常伝導状態との間に大きな自由エネルギーの差が必要になる。そのため、超伝導体でコイルを作っても、自分が作る磁場で超伝導が壊され、強い磁場を出すことは不可能であった。ランダウの弟子であったアブリコソフは、超伝導体の中で超伝導領域と常伝導領域が存在し、その境界の自由エネルギーが負になる場合を考えると、常伝導領域はできる限り細分化され、常伝導領域に侵入する外部磁場は で量子化された渦糸(うずいと)として侵入するということを指摘した。ちなみに、ランダウはアブリコソフのこの論文原稿を2年間机の中で寝かせていたそうである。

現在、超伝導が工学的な応用として実用化されている例の多くは、第2種超伝導体を用いて強磁場を発生することである。MRI、超伝導リニアモーターカー、粒子加速器、研究用の強磁場装置などが挙げられる。できる限り強い磁場を発生させるためには、渦糸を超伝導体中で動かないようにピン止めしておく必要があり、高温超伝導体の発見以降はさらに盛んに研究されている。このような、超伝導体中の渦糸状態の研究は、新超伝導体の探索や超伝導発現機構の解明とは一線を画す、超伝導の応用に不可欠な学理として、着実な進歩を遂げている。

ジョセフソン効果

量子力学の枠組みでは、電流とは電子の波動関数の位相の勾配に由来する。これを明示的な形で示したのがジョセフソン効果である。ジョセフソンは大学院生であった1962年、二つの超伝導体で薄い絶縁体を挟んだトンネル接合で、超伝導体の間に流れる超伝導電流(ジョセフソン電流)は、超伝導体の秩序パラメータの位相差のsineによって決まるという理論を発表した。これは、すぐにアンダーソンによって実験的に確かめられ、交流ジョセフソン効果とともに、超伝導の本質的な現象として考えられた。

ジョセフソン効果は、超伝導のエレクトロニクス応用には欠かせない要素である。交流ジョセフソン効果を用いれば、周波数と電圧の変換式が得られ、係数は物理定数だけで物質に依存しない。また、外部磁場が存在するとき、位相差にはベクトルポテンシャルの積分が寄与するので、ジョセフソン電流は磁場に対して敏感である。これを応用して、SQUIDと呼ばれる高感度の磁場センサーが、様々な用途に使用されている。2010年代になって、カナダのベンチャー企業D-waveが、SQUIDを含む量子ビットを用いて最適化計算に特化した量子計算機(量子アニーリング装置)を開発・発売した。現在では、Googleなどの世界的な企業も参入してAI、IoTへの応用を見込んだ量子計算機の開発が過熱している。

酸化物高温超伝導体の発見

1986年5月、スイスのベドノルツとミュラーは、銅の酸化物で超伝導が発現し,30ケルビンでゼロ抵抗を示すことを報告した。この発表は、当初それほど注目されていなかったが、同年の秋に東京大学のグループがベドノルツとミュラーの発見した超伝導物質の化学式と結晶構造を報告したこと契機として、「超伝導フィーバー」が始まった。2年もしないうちに、超伝導転移温度Tcの最高記録は、30ケルビンから110ケルビンにまで上昇し、1994年には、140ケルビンに及ぶTcを持つ化合物が発見された。

銅酸化物超伝導体の特徴を挙げる。

  1. 異方的な層状の結晶構造
  2. 銅イオンは、4から6個の酸素イオンに囲まれており、銅イオンと酸素イオンで構成される原子層で超伝導が強くなっている
  3. ほかの陽イオンと酸素で構成される原子層からは、正孔ないし電子のキャリアが供給されている
  4. 超伝導転移温度はキャリア濃度に強く依存し、キャリア濃度の最適値(最適ドープ量)がその物質系で最高のTcを与える
  5. すべて第2種超伝導体であり、試料中に無数に存在する酸素欠陥がピン止め中心となっている
  6. 超伝導ギャップは、d軌道波動関数のように波数空間の原点で節を持ち、低エネルギーで準粒子への励起が起こる

多様な超伝導状態

高温超伝導の発見以来、超伝導体の材料科学がとくに注目されている。前述のとおり、銅酸化物では、陽イオンの置換によりTcや超伝導異方性などの超伝導特性をチューニングできるようになったのは、半導体のバンドギャップや伝導率を元素置換によって調整することと類似している。また、銅酸化物の超伝導ギャップは、Tcにかかわらずd波の対称性を持つが、2006年に発見され、最高で55ケルビンのTcを持つ鉄系超伝導体は、水銀などと同じ形のs波の対称性を示す超伝導ギャップを持つ。さらに、超高圧下であるが、200ケルビンで超伝導に転移する硫化水素は、異方的な結晶構造を持つわけでもなく、BCS的な振る舞いを示す.2001年に発見されたMgB2は、軽い元素からなる超伝導体で、BCS理論が予測するように、40ケルビンに及ぶTcを示す。

このように、多様な物質において超伝導が発見されたことは、単に応用のオプションが増えたというだけでなく、多様な超伝導状態を観測して系統性を見出することによって、凝縮系の秩序状態や相転移に統一的な描像をあたえることができる。この点で、物理学上の大きな意義がある。