「フェルミ面とその観測方法、フォノン構造」–電気伝導第3講

前回の復習

バンドギャップの大きさが、電子の感じるポテンシャルのうち格子周期に相当する成分の振幅に依存することがわかった。つまり、電子が格子点で強い力を感じている場合、バンドギャップは大きくなる。さらに、電子エネルギーの分散関係(バンド分散)の計算方法を紹介した。最も初歩的な強結合近似は、絶縁体や 軌道電子のバンド分散を計算するのによい近似であり、原子から離れて存在する自由電子については、 摂動法や疑ポテンシャル法が有効である。現在のバンド計算の手法は、これらの近似が組み合わされており、計算機のパワーを利用して、銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体など単位胞に数多くの原子サイトを有する物質についても数多くの軌道のバンド分散が計算され、角度分解光電子分光などの実験結果と対比がおこなわれている。

フェルミ面と磁場中での電子の運動

フェルミ粒子である電子は、パウリの排他律に基づいて、エネルギーの低い軌道から2つずつ入っていく。波数空間において、エネルギーの大きさは原点からの距離に相当するので、電子の数が増えてくるに従って、波数空間の原点から遠い点に電子を収納させることになる。最後の電子を入れた点と等しいエネルギー(フェルミエネルギー)の点をつないだ曲面をフェルミ面と呼ぶ。フェルミ面上の電子は、基底状態において最も高いエネルギーを持つ電子であり、電気伝導などの諸物性にもっとも大きな影響を与える。

フェルミ面は、価電子の数が多くなるほど、波数空間の原点から遠ざかるので、より多くのブリルアンゾーンを跨ぐことになる。銅など1価の金属ではフェルミ面は第一ブリルアンゾーンからのはみ出しがわずかで、球面に近い状態にあるのに対して、アルミなど3価の金属では、第2,第3ブリルアンゾーンに複雑なフェルミ面が形成される。

磁気抵抗・ドハースファンアルフェン振動

自由電子モデルを考えると、金属に外部磁場を加えた場合、金属中の電子はローレンツ力によりサイクロトロン運動を起こす。サイクロトロン運動は、実空間では「らせん」の動きであるが、波数空間ではどのように表現されるだろうか?磁場がない場合、電子の波数ベクトルは任意の方向に向いている。試料に磁場を加えると、電子の波数ベクトルの先端は、フェルミ面を磁場に垂直な平面で切ることによって作られる軌道上に制約される。したがって、磁場下の固体中の電子の運動すなわち電気伝導はフェルミ面のトポロジーを如実に反映する。

低温・強磁場の場合、格子による散乱が減少し、サイクロトロン半径が小さくなるので、外部磁場によって電子が局在する。量子力学的に取り扱うと、電子のエネルギーは量子化され、外部磁場と有効質量の比から得られるサイクロトロン振動数に比例するエネルギー間隔を持つ(ランダウ準位)。磁場のない時に波数空間の格子点に分布していた状態が、磁場に垂直な同心円筒上に整列し、その円筒の半径は磁場に比例する。この円筒上に状態が集中しているため、円筒がフェルミ面に「接した」ときにフェルミ面上における電子の状態密度が極大になり、フェルミ面がランダウ準位の中間に位置するときに状態密度が極小になる。この振る舞いが熱力学量である磁化に現れた現象をドハースファンアルフェン振動とよび、電気抵抗に現れた現象をシュブニコフドハース振動と呼ぶ。ドハース振動を磁場印加角度を変えて測定することにより、フェルミ面のトポロジーがわかる。

固体におけるフォノン

これまで、主に電子に注目し、電子の波数を使って電気伝導を表してきた。イオンからなる格子が果たす役割は、静的な周期的ポテンシャルを作ることだけと考え、格子の動的な性質、格子振動は無視してきた。固体の温度は格子のランダムな振動であり、固体を伝わる音波は格子振動の伝搬によるものであり、固い媒質ほど音速が大きいという観測事実から、原子同士の結合力と強い関係がある。

格子振動を量子化したものがボース粒子のフォノンである。「量子化」というのは、取り得る運動量と座標を不連続に考える、ということであり、電子と同様に波数空間での格子点で表される。N個の原子からなる3次元固体の格子振動を3N個の独立した調和振動子の振動で表す方法をアインシュタインモデルと呼ぶ。フォノンを2つの横波と1つの縦波にとって、フォノン振動数の上限(デバイ振動数)を取ったものをデバイモデルと呼ぶ。実際の物質におけるフォノンの状態密度はでこぼこして複雑であるが、デバイモデルで与えられた に比例する状態密度から に比例する格子比熱が導かれ、固体の比熱はかなり高い精度で説明できる。

電子はイオンの作るクーロンポテンシャルを感じているので、イオンが完全に規則的で静止しているとすると、第一ブリルアンゾーン内に表される波数の小さい(波長の長い)電子は散乱を受けず、電気抵抗が生じない。フォノンを考えたとき、クーロンポテンシャルが動的に変形を起こすので、電子は散乱されて、電気抵抗がもたらされる。これが電子フォノン相互作用による抵抗である。特に、原子密度が変化する縦波の音響フォノン(長波長領域でギャップレス)からの影響が大きい。波数 の電子が波数 のフォノンにより散乱され、波数 に変化したとき、 と表し、フォノンを吸収したと表現する。

 

参考になるwebサイト

The Fermi Surface database: www.phys.ufl.edu/fermisurface/